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E.H.カー『歴史とは何か』


■書誌■

書 名  『歴史とは何か』   What is history? 
著 者  エドワード・ハレット・カー   Edward Hallett Carr  
訳 者  清水幾太郎    
叢 書  岩波新書D1    
出版社  岩波書店   Macmillan 
頁 数  新書判254頁    
定 価  580円(本体)    
発 行  1962年03月20日   1961 
ISBN  4-00-413001-8    


■書評■

本書は1961年の1月から3月にかけてケンブリッジ大学で行われた連続講演を収めたもの。歴史をめぐる根本問題がていねいかつ簡潔に述べられた好著だ。まずカーは歴史を定義して、「現在と過去との尽きることのない対話」「歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程」だと言う。歴史とは選択と物語化による解釈にほかならない以上、常に「現在」に生きる歴史家の問題意識・視点と切り離すことができないからだ。この見解は、客観的な歴史的真理は存在しないという考え、またどの歴史(解釈)にも優劣がないという考えを帰結するように思われるが、カーはどちらの考えもしりぞける。ここで問題になっているのは歴史における「客観性」にほかならないが、カーは客観性が不可能だとか無用だとは言わない。歴史にはやはり客観性が必要だと考える。そして歴史に客観性を与えるものは、歴史家の未来あるいは目的へのヴィジョンだと言う。なぜなら未来だけが過去を解釈する際の客観性を保証するからである。ここでいう客観性とは、事実の客観性などではなく、事実と解釈の間にたいして、また過去と現在と未来との間にたいして、重要性の正しい基準を用いることだ。[★1] そしてそれは、歴史家が自分自身の状況からくる狭い視点を乗り越える能力、自分の視点を未来に投げ入れることによって過去にたいして深さと永続性をもった洞察を獲得する能力に依存するだろう。だからカーは、先の歴史の定義としてあげた言葉「現在と過去との尽きることのない対話」を次のように言いかえる。つまり歴史とは「過去の諸事件と、次第にあらわれてくる未来の諸目的との間の対話である」と。(吉田浩)

★1――カーの言う「客観性」については議論の余地がありそうだが、それについてはまた別の機会に論じてみたい。




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