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マイク・デイヴィス 『恐怖のエコロジー――ロスアンゼルスとカタストロフィの想像』


■書誌■

書 名  『恐怖のエコロジー――ロスアンゼルスとカタストロフィの想像』   Ecology of Fear: Los Angeles and the Imagination of Disaster 
著 者  マイク・デイヴィス   Mike Davis 
出版社  (未邦訳)   Vintage Books, New York 
頁 数     484 pages
定 価     $14.00 (US) 
発 行     1998 
ISBN     0-375-70607-0 


■書評■

マイク・ディヴィスのロスアンゼルスは、アメリカの反理想郷に他ならない。前作(『水晶都市ロスアンゼルス』)同様、黙示録的文章がみなぎる本書では、征服や搾取の他に環境破壊に重点が置かれる。洪水、山火事、たつまき、地震、干ばつ、崖崩れ−旧約聖書ではおなじみの自然災害が、なぜ20世紀中盤以降、この街に頻発するのか?それは、デイヴィスによれば、加速するアメリカの文明活動そのものが温床となっているためだという。無理な埋め立てや灌漑施設の整備、森林の伐採、野生動物の乱獲、化学工場の建設といった「破壊的」な活動が、生態系の崩壊や自然環境の変質を招く。その結果、野生動物の凶暴化、野鼠やアフリカバチの異常繁殖、疫病の流行、干ばつや山火事の長期化、といった形で抑圧された自然界が人類に逆襲する。本書の「悪役」は、警察、企業、投機家、市長や市議会といった権力者達である。彼等の傍若無人な行為の結果、LAは「人災のテーマパーク」と化したのだとデイヴィスは皮肉たっぷりに論じるのだ。

ロスアンゼルスを襲うカタストロフィは、何も現実社会に限定された現象ではない。デイヴィスのリサーチによれば、1909年以降、LAは小説や映画のなかで、少なくとも138回は「破壊」されているという。壊される方法は、原爆、ウイルス、津波、怪獣や宇宙人の襲撃、隕石の衝突、テロリズム、地震など様々だ。なぜこの街は、これほどまでにナラティブのなかで壊滅されなければならないのか?不思議と、本書はこの問いには答えない。そのかわり、いかにLA=破壊の図式がアメリカ文化に浸透し、さらに一般大衆に好まれているのかを、『恐怖のエコロジー』は明快に指摘する。

ここまで書けば明白なように、本書は失われていく天災と人災の境界線、及び都市文明の不安な未来を予見した問題作である。評者は本書に賛同する立場をとるが、発売以来、『恐怖のエコロジー』は様々な方面から攻撃されてきたということは認識されねばならない。特異な自然現象−例えばダスト・ボウルやエル・ニーニョ現象−が人為的なものであるか否かを判別するには、当然慎重な調査と裏付けが要求される。その点、ポレミカルな文体が際立つ本書からは、そうした繊細な分析は欠けていると言わざるを得ない。また、建設的な対策を何ら講じないところで、本書の「無責任さ」が取り沙汰されてもおかしくはないだろう。環境学や生態学といった学問的観点から見た、人間社会と自然の相関関係及びその連鎖組織の体系も、主に地元の新聞や大衆雑誌を一次資料に用いた本書からは不足しているといえるかもしれない。

しかし、例年異常気象や災害に悩まされ続ける今日の世界において、デイヴィスの提起する諸問題が的を得ていないとはもはや言えないはずだ。オルテガ・イ・ガセットがモダンにおける「反逆」を大衆に見たように、デイヴィスは自然界そのものを、ポストモダンにおける「反逆」の対象と考えている。うかうかしていると、『ブレードランナー』における持続的なディストピアではなく、『博士の異常な愛情』のような終末論が具現化してしまうかもしれない、と『恐怖のエコロジー』は大胆に警告しているのだ(北村洋)



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