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| 亀山郁夫 『ロシア・アヴァンギャルド』 |
| 書 名 | 『ロシア・アヴァンギャルド』 |
| 著 者 | 亀山郁夫 |
| 叢 書 | 岩波新書 新赤版450 |
| 出版社 | 岩波書店 |
| 頁 数 | 246頁 |
| 定 価 | 631円(本体) |
| 発 行 | 1996 |
| ISBN | 4-00-430450-4 |
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一般的に「芸術」といえば、ゴッホの『ひまわり』、ロダンの『考える人』、モネ
の『睡蓮』など、個人の創作を指す場合が多い。しかし、そうした所産を個人の能力
のみに帰結する思考は短絡的だ。芸術家の存在する政治・社会・経済・文化的土壌、
及びそれらが作品に与える影響を顧みずして、「芸術」の価値や存在意義を判断する
ことは難しい。
亀山郁夫の『ロシア・アヴァンギャルド』を一読すると、改めてそうしたコンテク ストが働きかける力の大きさを思い知らされる。ロシアの前衛芸術家の創造力と可能 性がいかに政治環境との呼応によって誕生し、社会との格闘の中で育まれ、スターリ ン政権の下で無残に破壊されたかが簡潔に記されている。 ロシア・アヴァンギャルドの生成を助長したのは、さまざまな角度から(弁証法的 )働きを加える一種のアンチ性であった。西欧社会、キリスト教、アカデミズム、近 代化、象徴主義といったパラダイムへの反発から、まずは原始回帰の精神(プリミテ ィヴィズム)が生まれ、それはすぐに抽象芸術やギレヤ派による未来派運動へと転移 していく。 そして革命期を迎えると、前衛芸術はさまざまな内的融合と衝突を繰り返す。人間 の純粋な知覚を結晶化しようと試みるマレーヴィチのスプレマティズム絵画と、芸術 をキャンバスから空間へ解放しようと謳ったタートリンの反レリーフ運動が対立を展 開し、ネップ期に創刊された『レフ』の下には構成主義者やフォルマリストをはじめ としたさまざまな面々が集合し、左翼芸術戦線(赤い芸術インターナショナル)を標 榜する。そこには詩(マヤコフスキー)、演劇(メイエルホリド)、映画(エイゼン シュタイン)、絵画(ロトチェンコ)、音楽(モソローフ)、建築(メーリニコフ) といった多様なメディアが加わり、若き生産者たちは創作に多大なエネルギーを注ぐ。 アヴァンギャルド運動に歯止めをかけたのは、皮肉にも芸術家たち同様、革命の「 完成」を目指したスターリンであった。「社会主義リアリズム」を掲げた党内ではア ヴァンギャルド批判の空気が強まり、芸術家に「上からの」圧力が重くのしかかる。 その結果、マヤコフスキーの自殺、マレーヴィチの拘留、ロトチェンコの沈黙、メイ エルホリドの銃殺と一連の出来事が続き、前衛芸術の母体が蝕まれる。若きアーチス トたちの創作は、国家の地下室へと幽閉されてしまう。 こうしてロシア・アヴァンギャルドは悲劇的な顛末を迎えるわけだが、本書が一貫 して描き起こすのは、政治と芸術が際限なく衝突を繰り返した、20世紀初頭−30年代 におけるロシアの特異な文化環境だと思える。エレーナ・グロー、オリガ・ローザノ ワ、リュボーフィ・ポポーワら女性芸術家について、一般の読者向けに書かれた本書 はあまり言及しないが、はたして彼女たちのパースペクティブはどこへ向けられてい たのか?周辺共和国の活動ははたして異質だったのか(例:ドヴチェンコの映画)? こうした疑問を解消するには、末尾の文献リストを参照する必要がある。 ロシア・アヴァンギャルド芸術に関する簡潔かつ明瞭な入門書として、本書を勧め たい。(北村洋) |
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