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金子郁容『〈不確実性と情報〉入門』


■書誌■

書 名  『〈不確実性と情報〉入門』 
著 者  金子郁容 
出版社  岩波書店 
頁 数  280 
定 価  1650円(本体) 
発 行  1990年06月28日 
ISBN  4-00-004203-3-3 


■書評■

「不確実性」「情報」という時代のキーワードを確率論の方法を通して考えていこう、これが本書の意図である。

情報とは不確実性を減らすものである。著者はこの情報の定義から出発する。ここで確率論は、不確実性を減らしてくれる情報を得るための思考ツールとして考えられる。確率論はまず、対象とする実験のすべての可能な結果を集めた標本空間を設定することから出発する。標本空間の各要素(実験結果のひとつひとつ)は標本点と呼ばれる。そして複数の実験結果を点としてではなくパターンとしてとらえる。それによってひとつの確率論モデルを一見まったく異なったタイプのさまざまな不確実性に適用することができるようになる。またそのパターンは不規則さの規則性といえるような情報だから、これによって不確実な状況においていかに判断し行動すればよいかを考える際の指針がわれわれに与えられることになる。このように決定論の枠組みから離れた不確実性を含む状況が確率論の対象であり、そこにおいて確率論は非常に有効なツールになるのである。著者は、情報という概念や確率論が重要性を増してきたことの背景として、現代科学が決定論だけでは扱いきれない不確実性を問題にせざるをえなくなってきたこと、また現代社会においては各人が不確実性に対応できるような情報を得て適切な判断を下すことがますます求められるようになってきたことを挙げる。しかし、情報の意義は不確実性の減少にのみあるのではない、と著者は続ける。ヒトとヒトまたヒトとモノとのコミュニケーションのなかでは常に新しい関係が生みだされていく。そしてもちろん新しい関係が生まれるところでは新しい情報もまた生まれている(さらにそうして生まれた情報がまた新しい関係を生む)。このプロセスを著者はネットワークと呼ぶが、情報はこのようなネットワークの動的なプロセスにおいても生まれることができる(著者は不確実性を減じるものとしての情報を静的情報、ネットワークにおいて生じる情報を動的情報と呼ぶ)。さて、変化の枠をあらかじめ定めておいてその枠のなかでの不確実性を扱うという確率論の考え方には、コミュニケーションの過程で変化の枠そのものが不断に更新されていくというネットワークの視点は含まれていない。ここに確率論の考え方の限界が指摘される。しかし、とはいえ複数の可能性のなかからの選択、またその選択のための情報といった考え方を提示する確率論は、決定論の考え方よりもはるかにネットワークに親和的である。そこで著者は、確率論の考え方を静的情報のためのみではなく、動的情報を生み出すためのツールとして有効に生かしていくことが必要だと説く。個々人の多様性、その差異のなかから動的情報がかたちづくられていくようなネットワークを築いていくことが重要な要請だというわけである。

以上のように、本書は確率論の単なる入門的解説にとどまることなく、確率論を考えることが広く情報やネットワークを考えることにつながっていくことを明快に説く。はじめて確率論に触れる読者にとってだけでなく、乱立する「〜情報」なる名称を冠した学部に興味を抱いている大学受験生などにとっても有益であろう。

さてここで、そもそも確率となにか、確からしいとか不確かだとかいった言い方自体なにを意味しているのか、ましてやそれを計算するとはいかなることか、といった原理的な問題を掘り下げてみたくなる(わたしは確率という考え方に、嫌悪ではないがなにか不気味なものを感じることがある)。また情報について言えば、本書で扱われた静的/動的情報とはまったく性質を異とする反-情報といった概念を考えることができるかもしれない。しかしこれらをめぐる考察は本書の書評からは大きくはみ出してしまいそうなので、また別の機会に取り組んでみたい。最後に、科学的な仮説を立てる際の確率論の機能、量子力学や金融工学などにおいて確率論(や統計学)が演じるユニークな役割なども注目に値しよう。(吉田浩)



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