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リチャード・クーセル『誘惑されるフランス人――アメリカナイゼイションというジレンマ』


■書誌■

書 名  『誘惑されるフランス人――アメリカナイゼイションというジレンマ』   Secuding the French: The Dilemma of Americanization  書影
著 者  リチャード・クーセル   Richard Kuisel 
訳 者  (未邦訳)    
出版社      University of California Press, Berkeley 
頁 数     296 pages 
定 価     $15.95 (US) 
発 行     1993 
ISBN     0-52-020698-3 


■書評■

アメリカ文化は皮相的で低俗だ――こう考えるヨーロッパ人は少なくないという。「伝統」と「格式」に支えられてきたイギリスやフランスを始めとするヨーロッパの国々と比べ、アメリカ合衆国は歴史も浅ければ社会も「未熟」だ、とよく一般化される。しかし、それならなぜマクドナルド、コカ・コーラやハリウッドといったアメリカ産の物資がヨーロッパで多大に消費されているのか。いつからヨーロッパはこのように「アメリカナイズ」されたのか。そしてヨーロッパの人たちはアメリカの消費文化に対してどう考えるのか。リチャード・クーセルはフランスを例にとりながら、上記の疑問を検証する。しかし、本書はフランスのアメリカ化を調べているというよりかはアンチ・アメリカニズムの歴史的系譜をたどっている、といったほうが正確かもしれない。いずれにせよ、クーセルの仕事には学ぶところが多い。

フランスにおいて、アンチ・アメリカニズムが目立つようになったのは、第2次世界大戦後だ、とクーセルは唱える。マーシャル・プランやアメリカ産業の対仏投資といった経済活動の促進により、アメリカはフランスにおいてもはや無視できない存在となったからだ。批判は主に、フランスの左翼系知識人や共産党員から噴出する。しかし、同時に生活水準の向上を望む一般大衆は、アメリカ消費財の輸入を積極的に受け入れていく。「繁栄」の時代を支えるアメリカ流マネジメントも、フレンチ・ビジネスマンの関心を引く。いかにアメリカの資本と技術を得ながら、かつ自らののアイデンティティを遵守するか――これがフランスの課題となる。

60年代に入ると、ドゴールの大統領就任とともに、アメリカの封じ込め政策そしてアメリカン・ウェイ・オブ・ライフに対する批判が強まる。しかしその一方で、左派の内部対立、アメリカ的消費社会の受容、英語フレーズの流行などが、フランスの「アメリカナイゼイション」を助長する。70年代以降に入ると、アメリカ文化の摂取がさらに普及する。だが、反米感情は消えない。フランス人はアメリカというイデオロギーと交渉しつつ、「フランス人らしさ」にこだわり続ける、とクーセルは主張する。それはユーロディズニーランドの建設をめぐる一連の否定的見解が示すように、アメリカに対する歴史的ディレンマが、フランス人のアイデンティティを今でも形作っているからだというのだ。

主に第2次大戦後を考察する本書には、コロンブス以降世紀にもわたる「旧世界」――「新世界」の言説は調査されていない。したがって、フランス人のアメリカ観は、ほんの一部しか明されない。しかし、アメリカナイゼイションの過程を、一方的に文化帝国主義と決めつけるのではなく、繊細で矛盾した受容形態に重点をおいて検討したところに、本書の功績がある。内容も方法論も充実した良著。(北村洋)



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