本書は1.ポワリエによるレヴィナス哲学入門、2.レヴィナスとの対話、3.レヴィナスの未刊行テクストからなる。ここではポワリエによるレヴィナス入門を以下に要約する。本書のいちばんの売りはなんといってもレヴィナスへのロング・インタビューだろうが、それは直接本書にあたっていただいたほうがよかろうと思う。
・主体の誕生
主体は<ある>より誕生する。<ある>とは非人称的で無名のある存在にかかわる恐怖である。それはハイデガーの<ある>のような豊穣な胎としての<ある>ではなく、いかなる豊饒性も有しないざわめく静寂としての<ある>である。このような無名の、非人称的な<ある>からの脱出、それはとりもなおさず、他者との出会いによる。これによって主体は、他者のために身代わりとなって有責性を引き受ける。すなわち主体の誕生である。
・「私はあなたのものだ」
他なるものにたいする有責性、それは根源的に非対称的である。それは、見返りを期待して贈与をする態度では決してない。私は他者にたいしていつでも過剰に有責である、という点で非対称的なのである。他なるもののために自己を犠牲にすること、そこにこそ善性がある。そして正義を正しく、かつ人間的なものにしているのは、この善性の要素の存在なのである。
・哲学の道徳
プラトンからヘーゲルへと至る形而上学は、他なるものを同一なるものに還元してきた。これらの諸哲学は、他なるものを思考することによって、その他者性を中和しようとしてきた。だが、哲学はこの神秘(他なるもの)、この奇蹟(愛)に仕えなければならない。他なるものはあくまで他なるものであり、思考によって飼い馴らされることはない。これがレヴィナスの最初のそして最後の驚愕であり、この倫理こそが第一哲学である。哲学の道徳は他なるものにある種の諾を告げる。彼の不在への諾。彼の無関心への諾。思考の脆弱性への諾。放棄への諾。他者の身代わりとなって私が受苦し、私が死ぬことへの諾。犠牲と贈与への諾。愛と、愛の道徳への諾である。(吉田浩)