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アン・マックリントック 『帝国の表皮――植民地化における人種、性、セクシュアリティの言説』


■書誌■

書 名  『帝国の表皮――植民地化における人種、性、セクシュアリティの言説』   Imperial Leather: Race, Gender, and Sexuality in the Colonial Contest  書影
著 者  アン・マックリントック   Anne McClintock 
訳 者  (未邦訳)   
出版社    Routledge, New York 
頁 数     449 pages
定 価     $23.99 (US) 
発 行     1995 
ISBN     0-415-90889-2 


■書評■

ヘンリー・ハガードのベストセラー小説、『キング・ソロモンの秘宝』の始めに、宝のありかを示した古地図が登場する。「シバの乳房」というM形の山の谷間を通り、「ソロモン街道」という一本道をすすんで「三人の魔女」という三角形の丘から「穴」へ入れば、南アフリカのいずこかに眠るダイヤモンド鉱山へたどりつく−そう示された地図は、ものがたりのなかでイギリス人冒険家が活躍する舞台を紹介した目次的機能を果たす。しかし、アン・マックリントックによれば、「暗黒の大陸」を鳥瞰したその図面は、イギリスの帝国主義的「征服」を助長する役割を請け負うだけでなく、アフリカの地形を「乳房」「三角形の丘」「穴」と女体のようになぞらえることにより、帝国主義的活動を一種の性的支配行為−ヨーロッパ人の男性中心的支配行為−ともみなしている。『帝国の表皮』は、人種、ナショナリズム、性、階級、セクシュアリティらの諸要素が複雑にからみあった帝国主義の言説を、巧みに暴きだす。

マックリントックによれば、「帝国」という概念を理解するには社会的・文化的に規定された言説がどのように交錯したかを把握せねばならない。したがって、本書はさまざまな言説の交流を調査する。探検を「処女大陸の征服」とみなしたヨーロッパ人冒険家、石鹸や洗浄用品と一緒に広められた「ドメスティシティ」や「人種の洗浄」というヨーロッパ帝国主義に密着した概念、「科学的」に黒人や女性の優劣を「証明」しようとした学者の研究、「人種」というレトリックの時代的変化、南アフリカの黒人女性が記した自伝的叙述−「帝国」の言説を形成した多種多様な要素が、フーコー的枠組みのなかで分析される。

特に興味深いのは、ヴィクトリア朝のエリート、アーサー・マンビーと、その召使いでありながら妻としても仕えたハンナ・カルウィックの関係を綴った章だ。世間には旦那様と召使い、という関係を装っていた二人は、数十年にもわたって極秘に結婚生活を送っただけでなく、コスチューム・プレイに夢中になり、黒人奴隷から男性紳士に至るまで、さまざまな役を(主にカルウィックが)演じた。ヴィクトリア時代の表舞台には当然許されない二人の「変態」行為は、マンビーの一方的フェティシズムによるものではない。カルウィックもマンビーと同等の主体性を擁して、イギリス「建て前」社会の力関係に従い、逆らい、逆転させた、とマックリントックは述べる。つまり、帝国の言説は、さまざまな矛盾(フェティシズムや主従関係の逆転など)を許した交渉の場であり、時の流れとともに常に再発明・再定義される流動的な存在だ、と『帝国の表皮』は主張するのだ。

本書最大の功績は、既存の研究よりも帝国の言説をさらに複雑なものとしてとらえなおし、体系化したところにある。方法論はサイードの『オリエンタリズム』のそれとほぼ同様、フーコーの言説分析であるが、マックリントックの仕事は、サイードが怠ったジェンダーと帝国主義の接点を追及している上、言説上の葛藤や矛盾を容赦なく暴きだす点で、優れている。ポスト構造主義、ポストコロニアリズム、精神分析、フェミニズムなどいくつもの分野を活用した『帝国の表皮』は、帝国主義の本質を理解するためには不可欠だといえるだろう。(北村洋)



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