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人類史屈指のスーパースターのひとりである「人間」イエスの生涯を、真正とみなされる福音書中のイエスの言葉から再構築する。本書の特色は以下のふたつ。ひとつめはマルコ福音書の重要性の強調。マルコはきわめて個性的な福音書で、原始キリスト教団の主流派の閉鎖性・権威主義を痛烈に批判しながら「イエスにかえれ」と呼びかけるものだ。それにたいしマタイ・ルカの両福音書は反主流派的なマルコに修正を加えながらイエスのラディカルな発言や行いを正統的・教団的な立場から修正・改竄したものであり、ヨハネになるともはやイエス自身にまで辿りうる言葉や物語は多くは残されていない。だから「人間」イエスをいきいきと再現させるためにはマルコ福音書を重くみなければならない。ふたつめは、福音書に残されているイエス自身の言葉を徹頭徹尾論争として読み込んでいくこと。イエスの言葉は、それが発せられた論争的状況から切り離すことができない。たとえばあの有名な「神のものは神に、カエサルのものはカエサルに」(マルコ12.17)、これは何も宗教的真理を語ったものではない。この言葉はパリサイ派とヘロデ派が投げつけた売り言葉にたいする、イエスの皮肉と逆説に満ちた買い言葉とみるほかない。また、「もし1マイルを強制されたら、そいつと一緒に2マイル行ってやれ!」(マタイ5.41)、これも単なる従順と寛容のすすめではない。これはローマ帝国の強制労働のなかで発せられた抵抗の言葉と理解したほうが自然だ。以上のモチーフを踏まえたうえで、あくまでローマ帝国・律法学者・祭司長たちとイエスとの論争の書として、マルコ福音書を再読するのも一興であろう。(吉田浩)
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