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レイモンド・ウィリアムズ 『文化と社会:1780-1950』


■書誌■

書 名  『文化と社会』   Culture and society: 1780-1950 
著 者  レイモンド・ウィリアムズ   Raymond Williams 
訳 者  小谷洋一+清原孟    
出版社  桐原書店   Columbia University Press, New York 
頁 数  121頁   363 pages 
定 価     $21.00 (US) 
発 行  1978年01月   1958 
ISBN     0-231-02287-5 


■書評■

「文化」ほど、複雑でつかみどころのない概念はないだろう。文学や音楽から社会構造や生活様式まで、さまざまなテクストを指示するときに使われるこの一語は、統一された用法を持たず、そのため人文/社会科学系の分野でさまざまな論争を引き起こしてきた。解釈があまりに多岐にわたるがために、その存在意義を問う者も少なくない。

1958年に出版された『文化と社会:1780-1950』は、そんな混乱状態から「文化」を救い出す大事な手がかりを与えてくれる。イギリスのマルクス主義文学者レイモンド・ウィリアムズの目的は、大まかにいえば二つある。まずは「文化」の言説を歴史的に辿ること。二つ目は、「文化」(上部構造)を「市場経済」(下部構造)との関係のなかで論じることである。後に注目を浴びることとなる『長い革命』『マルクシズムと文学』『田舎と都市』『キーワード』の知的基盤が、本書にある。

現在用いられる意味での「文化」とは、ウィリアムズによれば、18世紀末のイギリスで派生した概念である。産業革命における新たな生産形態の導入は、ひとびとの生活に多大な変化をもたらした。「文化」とは、そうした産業構造のもたらす変化−出版技術の発達による読者層の増加、芸術作品と芸術家(artist)の市場経済への摂取、そして「一般大衆」(the masses)の顕在化−に対する反動として、作家、芸術家、思想家、知識人の間で発明−再定義されていく。

彼らの「文化」とは、画一的な機械産業の普及によって「失わ」れる人間性、創造性、滋養と教養、倫理と道徳、そして「真理」への可能性、などといった内面的価値を指す。カーライルやアーノルドは、さらに「選ばれた少数」による統治を必然と考え、モリスはモダン社会への痛烈な批判を展開する。こうしたエリートの自己救済ともとれる思考は、ニューマン、ミル、ラスキンらによって表現され、20世紀にはいるとD.H.ローレンス、タウニー、エリオット、I.A.リチャーズやリーヴィスによっても発話される。約2世紀にわたる言説の展開を通して、「文化」は次第に人間の内的生産から共同体や社会そのものの様式へと、定義の範疇を広げていく。

「文化」の解釈をめぐるマクロな流れを説くと同時に、エリート内の差異や個性をも繊細に描いて見せる本書は、思想史・文化史の古典として読まれるべき良著である。ただ、「文化」を語った人物はウィリアムズが挙げる以外にも当然多在するわけで、個人的には20世紀初頭の人類学者がどう位置付けられるか、興味が残った。後に文化と帝国主義の交点を鋭く分析したサイードも負うところの多い、希有な文学者の著作。(北村洋)



■備考■

なお本書には上記のほか、次の邦訳がある。

『文化と社会』(若松繁信+長谷川光昭訳、ミネルヴァ書房、1968)




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