「西ドイツの戦後思想史の大半」が「いまだ未紹介のまま放置されている」日本の現状において、その思想史をハーバーマスによる論争を中心に紹介すること、これが本書の前半(第一部)を占める論文「ハーバーマスをめぐる論争」の役割だ。著者が述べているようにここでの主題は「論争とその背景」であり、ハーバーマスをはじめ論争の舞台に登場する個々の思想家の主張を検討することではない。
同論文は、戦時下・戦後のドイツにおける『社会研究』誌の位置を、その創刊とほぼ同時代に刊行された『日本資本主義発達史講座』と対照するところから筆をおこし、敗戦、61年の東ドイツ政府による「ベルリンの壁」構築、68年に頂点をむかえる学生運動の興隆、ドイツ赤軍派によるテロリズムといった社会的・政治的文脈を解説しながら、「実証主義論争」「解釈学論争」「社会システム論争」「歴史家論争」「ドイツ再統一をめぐる論争」の諸論争を概観するものである。
「ドイツ戦後思想クロニクル」と題された第二部は、「ドイツ文化紹介」のコラム群(『日本読書新聞』『週間読書人』に発表したコラム)である。本書は、ドイツ戦後思想のリファレンスとして活用すべき好便な書物である。読者は、必要におうじて本書を参照すると同時に本書から問題の種子をとりだし、考究することによって本書を補完しなくてはならない。が、それだけに書名索引・事柄索引などが付いていないのは残念なことである(主要人名索引はついている)。(八雲出)