赤木昭夫
反情報論 双書時代のカルテ 124ページ、装幀=飯村一男 岩波書店、2006/11/08、¥1100(本体)、4000280813 |
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予断・診断・独断 思考の目付き――遠くの山々の霞を見るように 1 致命的な誤解 情報の不完全性/情報の志向性/情報の時制/情報の適中性 2 対立する情報観 インフォメーションの由来/「広く聞き見ること」/メタファとしてのインフォメーション 3 二〇世紀的発想 一九六〇年代/米ソの核対決とCの三乗I/ウィーナーのサイバネティクス/シャノンの情報理論/二〇世紀的な発想 4 学際的な概念か 利己的な遺伝子/セントラル・ドグマ――観察への理論的負荷/多重比喩――目的論への回帰/宇宙はビット/学際的な概念か/裸の王様のつぶやき 5 Xの哲学では Xの哲学とは/科学哲学では/情報哲学では/データに求められる要件/ミスインフォメーション 6 疑心暗鬼の果てに 経済情報の適中率/ルールのないゲーム/情報の不均衡が経済を動かす/ケインズの株取引の心得/通貨ディーラーの不安 7 脳は外界を志向する コンピュータにとっての難題/中国語の部屋――思考実験/言語(情報)の意味とは何か――ウィトゲンシュタインとサールの捉え方/ヒトの脳の特性――志向性/情報=志向性 8 なぜ反情報なのか 裏をかき、出し抜く/なぜ反情報か/前理解と前知識への期待 あとがきに代えて 情報基礎論の構想 |
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広く普及して目や耳にする機会が多いのに、使われ方が広すぎたり多様なために、かえってよくわからない言葉がある。コンピュータ、インターネット、携帯電話などの普及によって、「情報化社会」(情報社会へ向かう途上の社会)などといわれるようになって久しい昨今だが、この「情報」もまたそうした厄介な言葉の一つだろう。
たとえば、コンピュータで情報を処理するという。ここで「情報」とは、ビット化されたデータとは同じなのか異なるのか。会社の経営会議で、「市場の現状を分析するための情報が不足している」という。このとき「情報」とはなにを指しているのか。あるいは、Yahoo!に「天気情報」というページがある。この「情報」とは予報の言い換え以上のなにかであるのか。はたまた、戦争や商売において情報戦や情報操作というとき、なにが争われたり、操作されているのか。少し見回してみただけでも覚束ない。 本書『反情報論』は、この「情報」というよくわからないものを、腑分けして見通しを与えてくれる得がたい一冊である。著者は、世間に流通する情報という言葉のあやふやさを具体的に指摘しながら、多様な用法のもつれた糸を丁寧にときほぐしていく。 情報理論、分子生物学、物理学、情報哲学、経済活動などの諸分野において、情報はときに意味内容を捨象され、ときに(無批判に)メタファーとして用いられ、あるいはその真偽が問われもする。多分野において情報がキーワードになるのを見ると、あたかも情報の相のもとで、専門分化が進んだ多領域を学際的・横断的に架橋できるような気さえしてくる。 しかし著者が注意を促しているように、それぞれの分野における情報という概念の差異と限界について自覚的になるなら、むしろそこにはアナロジーの罠(アナロジーによる不適切な横滑り)が待ち受けていることが見えてくる。 本書に示されるいくつもの具体的な検討に触れたあとでは、読者は本書の外のそこかしこで目にする「情報」という言葉をそのまま受け取ることができなくなるにちがいない。そして、それこそが本書の目指すところである。 もちろんだからといって「情報という概念を用いるべきではない」という主張がなされているわけではない。書名の「反情報論」という言葉は、ひょっとしたらそういう素朴な誤読を招くかもしれない。しかし、筆者の意図はその逆だ。私たちは、インフォメーションのみならず、ミスインフォメーション(誤情報)に囲まれて生きている。そうした情報に騙されず、適切に読み解くための情報リテラシーの必要さえ叫ばれる昨今だが、本書はそのための情報批判を徹底することをこそ勧めているのである。よりよく情報に対処するために、個別具体的な情報を成立させている条件を厳しく吟味すること、そのように情報に対することを、筆者は「反情報」と呼ぶ。 こう書けばおわかりのように、反情報とは、抗情報でも非情報でも否情報でもない。そうではなく、あくまでも情報を積極的に活かすための姿勢と思考が必要であり、筆者はそれを「向情報」と呼んでいる。つまり、本書は向情報のための反情報を提案しているわけである。 では、そうした吟味を踏まえたうえで、本書はどのような情報観を提示するのか。それを手っ取り早くここに引いてもあまり稔りのあることではないだろう。というのも、本書の理路を追わずして(さしあたっての)結論だけに飛びついてみても、それこそことの妥当性を検討しないまま情報にとびつくようなものだからだ。 「情報」という言葉について覚束ないすべての人に薦めたい一冊。(2006/12/29 八雲出) |
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