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ほんとうの1cm

私たちはなんにせよ、ものの長さを測ることができる。そして、それがどれくらいの長さのものであるかを知ることができる。けれども、それをその真正なる大きさで見ることはどんなに努力しても不可能だ。たしかに私は手の平にのせた100円玉の直径をものさしで測ってみることができる。たとえば2.2cmと測定する。だが、これでわかったことといえば、100円玉の直径がだいたい2.2cmある、1mmを1単位とする尺度で22個分の長さに相当する、そういうことである。依然として100円玉は、私の眼から離れる距離に応じてその見える大きさを変えるだろう。このとき2.2cmという数字にはいったいどんな意味があるのか。見た目にはどんなに大きくなろうとも小さくなろうとも、「ほんとうは2.2cmなんだよ」と言ってみよう。「ほんとうは……」という発言には、私たちの眼にうつる100円玉のさまざまな大きさが偽ものであるという意味が含まれている。けれどもたとえほんとうの大きさが何cmであれ、私たちが物の大きさを実感するのは、自分との関係においてでしかない。この話にオチはない。ただ人間はいつもすでに、あるパースペクティヴのなかにいるほかにない、という人口に膾炙したことを何度でも確認するだけだ。いつもこのことが不思議でならなかったが、いっそう不思議なことは、私がものを見続ける限りいまでもこの驚きがひとつの新鮮な驚きであり続けることだ。

(1997/09/14 八雲出)






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