僕が子どもの頃によくした遊びのひとつに「暗闇ごっこ」がある。まず、夜眠る前に布団を頭からすっぽりとかぶる。で、自分の体にぴったりの棺桶に入っていると想像して、目をゆっくりと開ける。当然真っ暗で何も見えない。体を動かすこともできない。ここで、「この真っ暗闇が1日続いたらどうだろう? 1か月続いたらどうだろう? 1年続いたらどうだろう?」などと想像するのである。それはなんとも名付けようもなく途方もない、恐ろしい、不思議な感じのする想像だったけれど、僕はその遊びをやめることができなかった。いちばんの恐怖とは生き埋めの恐怖だと言ったのはポーだったか誰だったか忘れたが、何か恐いもの見たさのようなものがそうさせたのだろうと思う。実は、僕が暗闇ごっこもあまりしなくなった中学2年生のときに読んだ小説が、その恐ろしくて不思議な「感じ」を実によく表していてびっくりしたことがある。その小説の名は「ジョウント」。スティーヴン・キング『神々のワードプロセッサ』(扶桑社文庫)所載の短篇小説だ。あれから一度も読み返していないので記憶は定かではないが、それは確か近未来のワープ旅行を扱った小説で、好奇心旺盛なアメリカ人少年が主人公。ところで、その時代にはすでにワープが実用化されていたのだが、その際に守らなくてはならなかったことは、絶対に覚醒状態のままワープに突入しないということ。だからワープの前に、皆がガスか何かを吸入して眠ることになっていたのである。でも少年は、ちょっとした好奇心からかガスを吸わず、眠ることなく覚醒状態のままワープに突入してしまう。飛行機は首尾よくあっという間に目的地に着いた。が、少年を見やった両親は愕然とする。なんと少年の髪は真っ白、目は黄色く濁り、そして半狂乱状態でわめき散らしているのだ。「お父さん、意外と長い! 意外と長かったよ!」と。……この結末を読んだとき、少年の「意外と長い!」という叫びが僕に強烈な印象を与えた。この少年は、僕が小さい頃に想像していたような真っ暗闇を体験していたに違いない。彼はいったい何十年分、いや何百年分の真っ暗闇を体験したのだろう? 身動きひとつすることもできずに。それからしばらくの間、この「意外と長い!」という少年の叫びは眠る前の僕をひどく苦しめた。暗闇ごっこはしなかったけれど、あの「意外と長い!」という言葉が脳裏に焼き付いてしまったのである。もしあなたが暗闇ごっこをしたことがあり、かつ「ジョウント」を読んだことがないのなら、ぜひご一読ください。またあの恐ろしくて不思議な感じを味わうことができるかもしれません。
#ちなみに、僕は『ジョニーは戦場へ行った』(ドルトン・トランボ作、角川文庫)は読んでいません。 (1997/11/02 吉川浩満) |
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